障害児通所支援の事業所には、運営基準で虐待防止のための措置が義務付けられています。具体的には、虐待防止委員会の定期的な開催、従業者への研修の定期的な実施、それらを担う担当者の配置の3つです。令和4年度から義務となり、令和6年度改定では、これを満たしていない場合に基本報酬を減算する「虐待防止措置未実施減算」が設けられました。

タイトルに挙げた「指針」は、虐待防止の3つの措置には含まれていません。指針の整備が運営基準で義務になっているのは、身体拘束等の適正化のほうです。この記事では、義務の中身と頻度、指針の位置付け、減算の仕組みを順に整理します。

この記事は令和8年度(2026年6月施行の改定を反映、2026年11月時点)の省令・告示・通知に基づいています。虐待防止措置未実施減算は、令和8年度の改定では変更されていません。

虐待防止の義務の全体像

運営基準(平成24年厚生労働省令第15号)は、虐待防止について次の4か所で定めています。

条文 内容
第3条第4項 障害児の人権の擁護、虐待の防止等のため、必要な体制を整え、従業者に研修を実施する等の措置を講じる
第37条第11号 運営規程に「虐待の防止のための措置に関する事項」を定める
第45条第1項 従業者は、児童虐待防止法第2条各号の行為その他障害児の心身に有害な影響を与える行為をしてはならない
第45条第2項 虐待の発生・再発を防ぐため、委員会・研修・担当者の3つの措置を講じる

条文は児童発達支援の規定です。放課後等デイサービスは第71条、保育所等訪問支援は第79条で、それぞれ準用されています。

第45条第2項の措置は、令和3年の省令改正で設けられ、令和4年3月31日までは努力義務とされていました(令和3年厚生労働省令第10号 附則第2条)。令和4年4月からは義務です。

運営基準が求める3つの措置

措置 省令の定め 頻度(留意事項通知)
① 虐待防止委員会 虐待の防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、その結果を従業者に周知徹底する 1年に1回以上
② 研修 従業者に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施する 1年に1回以上
③ 担当者 ①②を適切に実施するための担当者を置く ―

省令の文言は「定期的に」です。「1年に1回以上」という数値は、減算の要件を定めた留意事項通知 第二の1(10)③で示されています。年1回は減算を避けるための最低ラインと捉え、事業所の状況に応じて回数を決めます。

委員会の運営ルール

留意事項通知は、委員会について次の扱いを認めています。

  • 事業所単位ではなく、法人単位で設置・開催してよい
  • 身体拘束適正化検討委員会と一体的に設置・運営してよい。虐待防止委員会で身体拘束等の適正化を検討する場合も、両方の委員会を開いたものとみなされます
  • テレビ電話装置などを使って開催してよい。障害児が参加する場合は、障害の特性に応じた配慮をします
  • 個人情報保護委員会のガイドラインなどを守ります

委員会は開くだけでなく、結果を従業者に周知徹底することまでが省令上の措置です。

「指針」はどう扱えばよいか

虐待防止と身体拘束の適正化は、並べて扱われることが多いものの、運営基準の中身が違います。

虐待防止(第45条第2項) 身体拘束等の適正化(第44条第3項)
委員会 定期的に開催・周知徹底 定期的に開催・周知徹底
指針 規定なし 指針を整備する
研修 定期的に実施 定期的に実施
担当者 置く 規定なし
減算の要件 委員会・研修・担当者の3つ 記録・委員会・指針・研修の4つ

虐待防止の指針は、省令の措置にも減算の要件にも含まれていません。一方、運営規程には「虐待の防止のための措置に関する事項」を定める義務があります(第37条第11号)。委員会・研修・担当者の内容を運営規程にどう書くか、別に指針を作るかどうかは、指定権者が示す運営規程の例や指導の方針を確認して決めてください。

身体拘束等の適正化のための指針は義務で、整備していなければ身体拘束廃止未実施減算(所定単位数の1%)の対象になります。両方を一体の委員会で扱う場合でも、身体拘束の指針は別に整えておく必要があります。

虐待防止措置未実施減算

減算の内容

  • 運営基準第45条第2項の措置を満たしていない場合、所定単位数の100分の1を所定単位数から減算します(告示 第1の1 注5の2、第3の1 注6の2)
  • 対象は児童発達支援、放課後等デイサービス、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援、共生型、基準該当(みなし基準該当を除く)などです。障害児相談支援も対象に含まれます
  • 減算になるのは、①委員会を1年に1回以上開いていない、②研修を1年に1回以上実施していない、③担当者を置いていない、のいずれか1つに当たる場合です
  • 3つのうち複数を欠いていても、減算率は1%のままです(令和6年度報酬改定の概要)

実際に虐待があったかどうかではなく、運営基準の取組が行われているかどうかで判断されます。

減算の期間と手続

段階 内容
事実が生じた月 運営基準を満たしていない状況が確認された月
速やかに 改善計画を都道府県知事等に提出する
翌月から 利用者全員について減算を始める
事実が生じた月から3月後 改善計画に基づく改善状況を都道府県知事等に報告する
改善が認められた月まで 減算が続く

事実が続く場合は改善の指導が行われ、指導に従わないときは、特別な事情がある場合を除き指定の取消しが検討されます(留意事項通知 第二の1(10)③)。改善計画の様式や提出方法は、一次資料に定めがありません。指定権者に確認してください。

この減算には体制届がありません。要件を欠いた事実があれば、届出の有無に関係なく減算の対象になります。

計算例(既存事業所の場合)

放課後等デイサービス、定員10人、時間区分2、医療的ケア区分に該当しないお子さん(609単位)、月22日営業、平均利用率90%(延べ198人日)と仮定します。1単位10円で計算します。

  • 1日あたりの減算:609 × 1/100 = 6.09 → 6単位(小数点以下は四捨五入)
  • 月の減算額:6単位 × 198人日 × 10円 = 11,880円
  • 改善までに半年かかると、6か月で71,280円

1単位の単価は地域区分で変わり、放課後等デイサービスは10円から最大11.20円です。減算は利用者全員にかかるため、利用者が多い事業所ほど影響が大きくなります。身体拘束廃止未実施減算や業務継続計画未策定減算と重なると、それぞれが別に適用されます。

よくある間違い5つ

  1. 「うちでは虐待は起きていない」と考えて措置を後回しにしている。 判断の基準は、取組が行われているかどうかです
  2. 委員会を開いたが、結果を従業者に周知した記録がない。 周知徹底までが省令の措置です
  3. 研修を年度末にまとめて予定し、実施できずに年度をまたいだ。 1年に1回以上のペースが崩れると減算の対象になります
  4. 担当者が退職・異動し、後任を決めていない。 担当者の不在は、それだけで減算の要件に当たります
  5. 虐待防止の委員会・研修・担当者はそろっているが、身体拘束の指針がない。 虐待防止措置未実施減算は避けられても、身体拘束廃止未実施減算の対象になります

事例で確認

事例1 委員会と研修は毎年実施しているが、虐待防止の担当者を決めていなかった。 → 担当者の配置を欠いているため、虐待防止措置未実施減算の対象です。

事例2 法人内の3事業所で、身体拘束適正化検討委員会と一体の虐待防止委員会を年1回オンラインで開き、議事録を各事業所に置いている。 → 法人単位・一体的な設置運営・テレビ電話装置の活用は、いずれも通知で認められています。委員会の要件は満たします。

事例3 研修は事業所内で年2回実施しているが、虐待防止の指針は作っていない。 → 虐待防止の指針は減算の要件ではありません。委員会と担当者もそろっていれば、虐待防止措置未実施減算には当たりません。

実務で用意しておくもの

次の記録は、運営指導で取組の有無を説明する材料になります。様式は一次資料に定めがないため、例として挙げます。

  • 委員会の議事録(開催日、出席者、検討内容、従業者への周知の方法と日付)
  • 研修の実施記録(日時、参加者、内容)。欠席者へのフォローの記録
  • 担当者を定めた書類(運営規程、組織図、辞令など)と、交代時の引継ぎ記録
  • 年間の開催・実施予定。年度の前半に1回目を入れておくと、予定の遅れに対応しやすくなります

まとめ

  • 障害児通所支援の虐待防止の義務は、委員会・研修・担当者の3つ(運営基準第45条第2項)。令和4年度から義務
  • 委員会と研修の頻度は、通知で1年に1回以上。委員会は法人単位・身体拘束の委員会と一体・オンラインで開ける
  • 虐待防止の指針は省令・減算要件に規定がない。指針が義務なのは身体拘束等の適正化
  • 1つでも欠けると、翌月から改善が認められた月まで、利用者全員の基本報酬から1%を減算

運営規程への書き方、虐待防止の指針の扱い、改善計画の様式は、指定権者によって運用が異なる場合があります。事前に所管の指定権者へご確認ください。